『可愛い子分のためだ。
なんかあったら、はね学のプリンスが相談にのってやる……な?』
あんなこと、言わなきゃよかった。
『あのさ、行きたいとこあったら、また、言えよ?』
もっと別にあっただろ、言いたいこと。
『ふられるのは怖いと。
じゃあ、やっぱ、そこが居心地いいんだろ?』
あんな言い方、するつもりじゃなかったのに。
今まで何度もの傷ついた表情を見ては、自分の言動を後悔してきたっていうのに。
「辛いならさ、もう、やめちゃえよ……。」
「…………。」
うつむく。
ああ、また、間違えた。
かしゃん、と硬い音を立てて、の割った皿の破片のいくつかがゴミ箱の底で重なった。
……まるで、俺。
ぶつかってばっかで、傷つけてばっかで。
「せめて、こんな風にうまく重なったなら、少しは」
「佐伯くん?」
呟いた言葉はドアの向こうから俺を呼ぶの声に、呆気なくかき消された。
「……どうした?」
裏口から珊瑚礁の中に戻り、さっきのをなかった事にするためなんだろうか。いつも通り、少し眉を寄せてみせて。
「後片付けさせちゃって、ごめんね。」
なのにはそれを許してはくれないんだ。
「このくらいどってこと………、指、どうした?」
俺の目から隠すようにぎゅっと握り込まれた人差し指に、さっきまではなかったピンク色の絆創膏。
は一瞬躊躇うように言葉に詰まって、答えを促す俺の目を見てそろりと口を開く。
「靴紐、結び直そうと思ったら……破片が。
大丈夫だよ。ちょっと刺さったくらいだし、全然痛くないから。」
「………そうか。」
いつだって守りきれないんだな、俺。
やりきれなさに俯くと、スニーカーを履いたの足が視界に入る。
怪我した指でうまく結べなかったのか、結び直したっていう靴紐はその割に歪んでいる。
急に押し寄せてきた息苦しさに、思わず顔を顰めた。
歪んでるのは俺だけでいい。
「座れ」
「え?」
カウンターのスツールを勧めると、はきょとんとして俺を見た。
「靴紐、歪んでる。俺がちゃんと結んでやるから。」
その顔をまっすぐ見ることができなくて、俺は少し強引にをそこに座らせた。
「…………。」
困ったように足をぷらぷらさせて、それでも足元にしゃがみこむ俺を黙って目で追って。
その視線を痛いほど感じながら、俺はそっとの靴紐に指を伸ばした。
しゅるり、とかすかな抵抗を残して、呆気なく解ける蝶結び。
俺は苦い笑みを零して、に聞こえないように小さく呟いた。
「さっさと解放してやりたいんだ………こんな風に。」
を捕らえて離さない、辛く苦しい片恋の糸。
だけどその糸だけが、同時にを俺の元へと繋ぎ止めてくれる。
結び直した蝶の羽をぎゅうっと引っ張る。千切れても、毟れても構うもんか。
強く、強く。勝手に解けてしまわないように
「佐伯くん」
見上げると、泣きそうな顔して笑う。
「ありがとう」
俺を疑いもしないで礼を言うに、また、どうしようもなく息苦しくなった。
きっともう、俺は、自力じゃ浮かび上がれないくらい深い深い海に沈んでしまっている
01 繋ぎ止めたい 喩え力尽くでも
DS版追加イベントその後。親友は切なすぎます。この時点だとまだデイジーは本命フラグなんですかね?
しかしのっけから暗い。
切な系を目指したはずがただ暗い……。
update 09/06/09