「ンン……イイわ、……」

 恍惚の表情を浮かべた先生が右手を素早く動かしながら、もう片方の手でわたしに触れる。
 先生の手でボタンを全て外されたブラウスが、火照るわたしの身体から熱を奪いながら滑り落ちた。

「見てるだけでどんどん溢れて……フフ、本当に可愛いコ……。」
「せ、先生……」
「まだヨ……まだ、止まらないワ。全部出し切るまで……動いちゃダメ。」

 舐め上げるようにわたしの身体を這う先生の視線に羞恥をあおられ、わたしは思わず目を閉じてうつむく。
 もう何度目だろう。いつまでたっても慣れないこの行為に、わたしの身体は強張るばかりだ。

「フ……ゥ。」

 ようやく全てを出し終えたらしい先生が、肩を震わせながら息を吐いて私から視線を逸らした。

「もういいワ、。」

 息もできないほどの緊張感から解放されたわたしは、ぐったりとソファにもたれかかって深呼吸をした。



 世界的ファッションデザイナー・花椿吾郎。
 わたしの目の前にいるその人が、今のわたしの全てだ。

 高校卒業と同時に先生の弟子になったわたしは、世界各地を飛び回る花椿先生に付いてその最高峰と言われる技法に触れつつ、地道に基礎を固めた。
 そして先生の家に住み込んで身の回りのお世話をしたり、こうして先生の玩具になる日々が今のわたしの日常。


 わたしは身体中に絡み付いた色とりどりのリボンを引き剥がそうと試みる。
 今回のテーマはリボンだと言うのでこの状況なんだけど……

「なんかデタラメに巻きつけただけって気がするんですけど」
「なんだってイイのヨ。アタシが感じられればそれで、ネ。」
「……ついでに解いていってくれると嬉しいんですけど?」

 思わずねめつけるようにして先生を見ると、先生は薄く笑って手にしたクロッキーノートに鉛筆を挟んでパタンと閉じた。

「あら、ズイブン不満そうじゃナイ?」
「そりゃあもう!痛いんですよ食い込んでるから!」

 ぎりぎりと締め付けるように巻かれたリボンは、正直言ってイジメだ。

「しょうがないデショ?アナタはアタシのインスピレーションの泉。
 アイテムを身に付けたを見てるだけで、アタシはイメージが溢れだして止まらないのヨ!」
「……光栄です。」

 再び恍惚とした表情で踊りだす花椿先生に、わたしは感覚のない身体でため息を吐いた。



「……ハイ、これでイカガ?」
「ありがとうございます。」

 先生の手によってリボンが全て取り去られると、わたしは下着の上にキャミソール一枚というあられもない姿になる。
 あわてて辺りに散らばる自分の服をかき集めるわたしを見て、花椿先生が呆れ顔で肩をすくめた。

「いい加減慣れなさいヨ。ウブなコね〜」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんです!第一、先生がガンガン脱がしてくから……」
「心配しなくても小娘のセミヌードくらいジャ、大人の男はどうとも思わないワよ!オーッホホホホホ!」

 口元に手を当てて高笑いする花椿先生に、『どこらへんが大人の男?』と心の中で突っ込みを入れる。

「あ、そうそう、それで思いだしたワ。」
「なんですか?」

 突如ピタリと笑うのを止めた先生は、わたしが座るソファの近くに置かれたテーブルにツカツカと歩み寄る。
 そしてテーブルの下に置かれた紙袋をガサゴソやって、中から箱を取り出した。
 花椿吾郎の商標が印刷されているところを見ると、先生の新作のサンプルだろう。

「そう。今日届いたサンプルなんだけど、どうもしっくり来ないのヨネ。」
「素材の発注ミスとかですか?」
「ンーン、素材も仕上がりもイメージ通りよ。、ちょっと着てみてチョーダイ」
「そんなにクネクネしなくても着ますから……」

 もどかしげに身をくねらす先生に正直引きながら、わたしは手にしていた自分の服を傍らに置いた。
 そして先生に視線を戻すと、丁度先生がサンプルの服を取り出したところで……

「っっ!?」
「ンモゥ、どうしてなのカシラ?」
「せ、先生!その物凄く形容しがたい色の服は……!?」
「モチロン、メンズの新作よ!テーマは『大人の男のノースリーヴ』!」

 世界的ファッションデザイナー・花椿吾郎……そのセンスも技も確かに超一流。
 しかしそれはあくまでも女性向けの作品の話であって……

「今までは大人の男でも一鶴レベルのダンディ世代をターゲットにしていたデショ。
 今回はもう少し若返りをはかって、零一ちゃん世代を……」
「うわ、先生、その服振り回さないで下さい!目が痛いです!」

 熱弁を振るう先生が手にした服を振り回すたび、間接照明のはずの灯りがギラギラ乱反射して容赦なく目に付き刺さる!
 もちろん花椿先生には全くダメージがないところが逆に大問題だ。

「だらしないわねェ……ま、いいワ。じゃあこっちのクツから履いてみてチョーダイ。テーマは『大人の男のトゥシューズ』……」
「もう全く大人の男のアイテムじゃないですよぅ……」
「だまらっしゃい!」

 ノースリーヴ光線によって視力を奪われたわたしは、あっさりと後ろから羽交い絞めにされソファに拘束されてしまった。

「ってうわぁっ!どこ触ってるんですか!?」
「色気のない声ねェ……だから小娘だって言うのヨ。」

 ソファに座った花椿先生の膝の上、後ろから抱きしめられるように抱えられて慌てるわたしの耳元を、先生の呆れたような声がくすぐった。
 思わず身体を硬直させると、胸元に添えた手に引き寄せられた。

「ホラ、おとなしく寄越しなサイ。」
「やっ……せ、先生!」

 そのまま太ももを伝った手が膝の裏に回り、膝が胸にくっつくほどに持ち上げられる。
 さすがにこれには抗議の声を上げるものの、意に介す素振りすら見せない先生はその状態でわたしの足に靴を添わせた。
 柔らかい革の感触に熱を奪われ身を震わせると、クスリと笑う先生の吐息が首筋にかかる。

「……っ、せん、せ」
「……ン、ピッタリね」
「え?でも、メンズのサンプルなんじゃ……」

 先生の声に恐る恐る目を開いて足元を見ると、とてもメンズとは思えないフェミニンな淡い色使い。
 
「やぁね。男にトゥシューズだなんて、ジョーダンに決まってるデショ。
 こういう可愛いモノは可愛いオンナノコが身に付けるから可愛いのヨ?」
「……からかったんですか?」
「フフ、どうカシラね?」
「………。」

 不貞腐れるわたしをよそに、先生の手が再び動き始めた。
 靴から長く伸びたリボンを、わたしの足首から膝の少し上にまで巻き付けて、形良く結ぶ。
 先生の指先が熱を帯びた肌に触れるたび、ぞくぞくと背中を駆け上がってくる言い様のない羞恥に鼓動が早くなる。

「せ、先生っ……」
「さ、もう片方もお寄越し?」
「自分でできます!」

 そんなの、絶対、心臓がもたない!
 もう片方の靴を奪おうと身を捻ると、そこにあるのはいつもの恍惚とした表情。

「せん……せい?」
「ダメよ。」

 いつまで経っても慣れなくて、その眼に射すくめられたように動かなくなるわたしの身体。
 そして先生はいつものようにわたしに触れながら、世界が歪むほどのオーラを放って、妖しく微笑む。

「アタシを感じるアナタだけが、アタシの情熱に火をつけるのヨ。」



05.脱がすは男の欲望、着せるは男の甲斐性
はい、ラストを飾るは大御所で!ってことで、花椿吾郎大先生のセクハラSSでした!
魅惑の花椿エンド後、じわじわと視姦され生殺しにされるさん
先生の放つオーラはサイケ光線だと思います。混乱します。
ここまでお付き合い頂いてありがとうございました! update09/06/12