「ん……っ」
 口腔に滑りこむ瑛の舌。おずおずと自分の舌を絡めると、きゅうっと吸われて瑛の中に誘われた。
 ぴちゃ、と聞こえた卑らしい水音にびくりと身を震わせると、更に音を立てて吸い付かれて。
「て、る……んぅっ!」
 抗議の意を込めて呼んだ名前ごと、絡めとられて奪われる。
 ぬるぬるとすり合わせたかと思ったら甘噛みされ、引っ込めようとしても追いかけてきてちゅくちゅくと吸い付かれる。
「んっ、ふぅんっ!」
 立っているのもやっとなそれに、わたしは鼻にかかった声を漏らして瑛にしがみつく。

「……俺もシャワー、浴びようって思ってたんだけど」
 はぁ、と乱れた呼吸を整えながら、瑛が唇を離す。形のいい顎まで伝った、どちらのものかわからない唾液。
 酸欠で喘ぎながらそれを見つめていたわたしの顎からも、ぽとりと冷たくなった雫が落ちる。
「……マジで無理」
「きゃっ!」
 なにかを抑えるような声で呟くと同時に、ぐいと手を引かれて部屋に連れ戻された。




 抱き上げられて、どさりとベッドに投げ出される。
 少し乱暴なその行為に、ぎぃ、とベッドが軋んだ。
「ゴメン……」
 その切羽詰った響きに視線を上げると、そこには燃えるような光と切なげな表情の入り混じった、瑛の瞳。



  ああ、欲情している



 ぼんやりとそう思った瞬間、瑛の手がタオルの合わせ目から滑りこんできた。
「ひゃっ」
 短く声を上げるより速く、いとも容易くタオルは左右に開いてしまう。
「や、見ないで……っ」
 照明に煌々と照らされていることに気付き、あわてて隠そうとした両腕はベッドに突いた瑛の腕に縫い止められて

「……綺麗だな」
 わたしの言葉なんて無視して、うっとりと微笑んだ瑛の方が余程綺麗なのに。
「恥ずかしいよ……」
 電気を消して欲しいという願いが、こんな瑛の顔も見えなくなると思うと消えて行く。
 それでもやっぱり感じる視線にふるりと身体は反応して、羞恥が煽られた。


「肌……白いな。すべすべだ。」
 さっきまでの勢いはどこへやら、瑛はやけに余裕の態度でわたしの身体に手を這わせる。
「……っ!」
 おへその周りを何度か辿ってからわき腹を上ってくるそれに、思わず息を詰めた。
「……柔らかい」
 そっと包みこむように触れ、優しく力を込められると、わたしの小さな胸は瑛に合わせて形を変えた。
「は……あっ」
 少しずつ荒くなる呼吸を押し殺しながら、どうしていいかわからずに瑛の頭を引き寄せると、優しく口付けられる。
「別に小さくないって……」
「ん、でも……ああっ!」
 大きくもないし、とひねくれた言葉を返そうとした途端、耳朶に吸い付かれて体が跳ねた。
「耳、弱いのな?」
 にやりと笑った瑛に直接言葉を吹き込まれ、ぞくぞくとした感覚が身体を駆け上がる。
「や、瑛、なんか……ヘン……っ」
 涙目で訴えると微かに目を見開いた瑛が
「……、やらしー」
「ふあぁっ!」
 吐息を漏らした瑛にいきなり胸の頂に吸い付かれる。
 抑えそこねた声が響き、自分の物とは思えない甲高いそれに、みるみる身体が熱くなった。

「や、やぁっ!」
 あわてて押し戻そうとする手を物ともせず、瑛はもう片方の蕾も指先で弄びながら、ぐいっと舌で押し込むように刺激する。
「ひぁっ!」
「嫌じゃないだろ?ほら、もうこんなに尖ってるし。」
「瑛の意地悪……っ!」
 わざと見せつけるようにぺろりと出した赤い舌が艶めかしく動く度、なにかがぞくぞくと身体を貫き、無意識のうちに下腹部に力が入るのがわかった。
 恥ずかしい声を堪えながらふるふると首を振ると、瑛がちくりとした痛みを首筋から胸元のあちこちに降らせる。
「っ!……っふ…」
 その痛みにすら煽られて、わたしは思わず涙を零す。

?」
 そんなわたしに気付き、表情を曇らせた瑛の顔がわたしの目の高さに戻ってきて、そっとそれを拭った。
「うぅ……嫌だぁ……っ」
「………ゴメン。」
 瑛の傷ついた顔がみるみる溢れてくる涙にかき消されて、わたしは急いで服を着たままの瑛の胸にしがみつく。



「どうしようなんかわたしホントにヘンだ!」
「はぁ?」
 わたしの切羽詰った宣言に、瑛はこんな時だと言うのにものすごく間の抜けた声を出した。
「なんかヘンな声とか出るし、なんかぞくぞくするし、なんかヘンなとこヘンだし……っ!」
「……落ち着け。」
「うう……ヘンなのやだぁ……」

 はあ、とため息をついた瑛は、くるりとひっくり返したわたしを自分の上にのせて、ごろりとベッドに横になった。
 そしてわたしの頭を優しく撫でながら、子供をあやすようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
は全然ヘンじゃない。っていうかスゴク可愛い。」
「可愛くないもん!」
「可愛いよ。感じてる声も、感じてる顔も。」
「……え?」
 わたしは弾かれるように顔を上げて瑛を見る。
 瑛が浮かべる蕩けそうな極上の笑みを瞳に映しながら、今聞こえた言葉を繰り返す。
「……感じて……?」
「そ。は俺に感じてるんだ。……ほら証拠。」
「ひぁ!?」
 突然瑛のデニムを履いたままの膝がぐいと曲げられ、わたしの秘所を擦り上げた。


  くちゅ
「!?」
 少し冷静になった耳に、濡れた音が届いてかぁっと身体が熱くなる。
「ほら……濡れてる。」
「っっ!!」
 掠れた声で確認され、ますます恥ずかしくなって上体を起こす。
 しかしわたしは自分が裸なのを失念していた。

 瑛の顔前で自分の双丘がぷるりと揺れるのと同時に、瑛の瞳に宿った光を目の当たりにして

……」

 瑛の甘い声がわたしのそれを呼び覚まし
 燃え上がるままに欲情して抱き合った。






 やっぱり瑛は綺麗だなぁと、蕩けた頭で考えた。

 壁に背を預けて上体を起こした瑛に促されるまま、足に跨るようにして座る。
 その間に上衣を脱いだ瑛の身体を見るのが恥ずかしくて、しがみつくようにして抱きしめた。
 遮るものの無くなった肌と肌が触れ合い、それだけですごくドキドキするのに、今まで触れられたことのない場所に瑛の指が触れる。
「やぁっ!」
「ほら、もうこんなだ。」
 くちゅくちゅと音を立てて瑛の指が秘所を滑り、かき分けるようにして探り出す。
「やぁ……っ」
 羞恥よりも先に覚えてしまった快感に為す術もなく飲み込まれるのは、なにより瑛そのものに欲情してしまっているから。
 わたしが表情を歪めるたび、声を上げるたび、身体が反応するたびに、瑛は満足そうに瞳を細めてわたしの痴態を見つめるのだ。

、かわいい」
 とろりした表情で何度もそうわたしの名を呼んで、ところ構わず唇を落として舐めあげ、吸い付く。
 わたしの胸元に散ってゆく紅い徴が、瑛の欲情が高まるに少しずつ濃度を増した。
 それを見つめる瑛の瞳も同じ紅。

 なんて綺麗で淫猥な瞳。




「ふぁあっ……やぁ、瑛ぅっ!」
 一番敏感な肉芽を親指と人差し指で摘むように擦りあげられ、激しすぎるほどの快感に身をよじった。
「まだ指じゃ強いか……」
 そう呟いた瑛がわたしの腰に両手を添えて抱き上げ、わたしの下から抜け出して再びわたしを組み敷く。
「てる……!?」
 目の前から消えた瑛の顔を無意識に追いかけて、思わず身体を強張らせた。
「や、やだっ!瑛、待って……!」
 こんなに明るい部屋の中だというのに!
 力が入らないまま押し広げられた足の間に瑛はいた。  自分だってよくわからないその場所に、一番に好きな人が触れることの不安に、あわてて瑛を止めた。
「待たない。」
 返ってきた簡潔で絶望的な答えに、あわてて足を閉じようとするけど、それは無駄な抵抗に終わる。
「ひゃぅんっ!」
 ぬるりとした瑛の舌にそこを容赦なく刺激され、一瞬でわたしは再び快楽の波へと放り出された。
「ああっ、ふぁっ!……んっ、やぁ、キモチイイよぉっ……!」
「……っ」
 恥ずかしいのに思わず素直に言葉が零れてゆくのに
 煽るようにぺちゃぺちゃと音を立てて舌を動かしていた瑛が息を呑んだ。
「あぁんっ!」
 それすらまた違った快感を生み、ひくひくと別の生き物のようにうごめくそこが、更なる刺激を求めて熱く蕩けだす。
 この感じはなんだろう……触れられているよりもっと奥が、きゅうきゅうと締め付けられるように切なくうずく。
「瑛……なんか、ナカのほうヘンだよぅ……」
「……おまえってやっぱ天然」
「ひゃう!?」


 この感覚を与えてくるひとに助けを求めると、吐息混じりに呟かれ
 同時にぐい、とナカに突如押し入ってきたものに悲鳴をあげた。
 ぴりっとした痛みを覚えて目を向けると、今まで膝裏を持ち上げていた瑛の手のひらがそこにある。
 けして強引にではなく探るように少しずつ侵入してくる、舌よりも固くて長い
 これは……瑛の指……?
「あ……っ」
 ぼんやりと状況を把握したわたしのナカで、それがくにゅくにゅと動き出して今までとは違う感覚が襲ってくる。

 瑛の指。
 脳裏に浮かぶコーヒーを淹れる手つき。プロ並みのケーキを作る手。
 繋ぐだけでドキドキした、あの瑛の指が、誰も触れたことのないような恥ずかしい場所を、泳ぐようにかき回して
「あぁっ!」
 どうしよう、こんなのなんだか凄くインモラルだ 「さすがに狭いな……ぎゅうぎゅう絡み付いてくる……」
「そ…ゆこと、言わないで……っふぁ……っ」
「ん…ゴメン……でも、キモチよさそうだな?腰、動いてる」
「やぁ……だって、瑛の指が……っ」
 感心したような瑛の声に更に煽られ、残ったわずかな理性が羞恥に染まった。

 捨てきれないそれがなにかの邪魔をして、それが苦しい。

 それはキモチが良ければ良いほどどんどん膨れあがっていくみたいで、わたしは必死で瑛に訴えた。


「瑛、お願い……苦しいよぉ……っ!」
「っ!!」
 不意に瑛の身体が離れて、じわじわと快感の波がひいていく。
「ふ……ぁ」
 助かった……少しずつ治まっていく苦しさに、乱れた呼吸を整えようとするわたしのぼんやりとした視界に瑛が映る。
 瑛は艶めかしい目でわたしを見ながら、てらりと光る唇でわたしのナカにあった指をぺろりと舐めて
……」
 熱の篭った声でわたしを呼んだ。
「瑛……」
 行為を中断させてしまった心苦しさで、その端正な顔を引き寄せて口づける。
 わたしで汚してしまったその舌と指を舐めてみると、なんとも形容しがたい味がした。
、行くぞ……?」
「うん……え?」
 不味くはない、というより美味しいとか不味いって表現できるものじゃないよなぁ……
 なんて暢気に考えていたわたしは、返事より一瞬遅れて我に返り、切羽詰ったような表情の瑛を見た。



「っ……きゃぁっ!」
 突如襲った引き攣れるような痛みに思わず悲鳴をあげる。
「ゴメン……痛い?」
「痛い……けど」
 ぐりっと押し付けられた瑛の先端。
 見るとわたしのナカにあるのはほんの少しだけだ。なのにもうこんなに痛いなんて。
 だけどわたしは、瑛の首に回した腕に力を込めて首を振る。
「……やめないで……」
 目の前にある瑛の顔。頬は上気して、瞳はとろりと潤んで、うっすらと開いた唇から洩れる切なげな吐息。
 こんな瑛の表情が見られるなら、この程度の痛みは苦じゃない。
 さっき瑛がしていたように、わたしに感じる瑛の姿を見てみたいなと思ったんだけど




 甘かった。




「んぅ      っ!」
……力、抜けって。進まない」
「が、頑張ってるけど……っ身体が勝手にっ」
 さっきまでとは比べ物にならないくらいの激痛に、思わず下腹部に力が入る。それに押し出されまいと腰を進める瑛が顔をゆがめた。
 瑛の方も痛いんだろう……必死に力を抜こうと浅い呼吸を繰り返して腰を浮かせた。
「ふ……ぅっ」
 ぽろぽろとこめかみを伝う涙に優しくキスしながら、気遣ってゆっくり進めてくれていた瑛も苦しげに息をつく。
「……っあんま締めんなって、時間かかるとがツライ……っ」
「締めるって…なに……ひゃぁぁっ!」
 突如一気に貫かれ、わたしは背中を反らせる。
 尚も続くズキズキとした押し広げられる痛みに、縋りつくように瑛の身体を抱きしめた。

「ゴメン……でも、これで全部。」
「瑛の、全部……?」
 痛みの中、確かにすべてがぴったりと重なった感覚。少し身体を離して瑛の顔を見ると、これ以上はないってくらい甘い微笑。

「そう。……俺の全部、の。」 「そ……か。へへ、嬉しい。」
 心の底から込みあげてきた喜びにふにゃりと笑みを浮かべると、瑛もおなじ様にふにゃりと笑う。
の全部も、俺のだな?」
「もちろん!」
 わたしの涙を拭う瑛の指先を手に取って口付けると、瑛はわたしの額に優しく唇を寄せた。




「愛してる……






「……それで、今度は何が嫌だったんだよ。」
 終わった後、瑛に背を向けて不貞腐れるわたしに、頬杖をついてベッドに寝そべる瑛が呆れたように尋ねてくる。
「瑛がなんか余裕なのが嫌だ!」
「……はぁ?」
 まだ痛む腰に鞭打ち、上体をがばっと起こして言い放ったわたしに、瑛はあろうことか思いっきり面倒くさそうな表情を向けた。
「なんか全体的に!こ慣れてる感が嫌なの!!」
 それが更に気に障ったわたしは、びしっと指を突き付けて追求する。
「なんかやけに巧いし、初々しさがないって言うかとにかく余裕だし!」
「巧いのがイヤだって言われてもな……。それになんでもソツなくこなせるのが俺だろ?」
「……。」
 そう言われてみればそうなんだけど。
 尚も腑に落ちない顔で睨んでやると、瑛はため息をついて手を伸ばしてくる。
「おまえはホント、男のプライドを叩き割りたがるヤツだよな。」
「え?」
 もちろん避ける気でいたわたしは、瑛の言葉に動きを止める。
「見栄張って、余裕なフリして見せたがるのが男って生き物なんだよ。」
 腕を掴まれ引き寄せられて、恥ずかしそうに拗ねた顔がほんの一瞬。
 それを隠すように逞しい胸に顔を押し付けられ、抱きすくめられると伝わってくるびっくりするほど速い鼓動。



「余裕なんて、ホントは全然ないっていうんだ。」



 拗ねた子供のような口調に、ようやくわたしは機嫌を直して瑛に寄り添う。
 照れ隠しなのか、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる腕をなんとかくぐって、愛しい人に笑いながらキスをして。


「愛してるよ、瑛」
 思いっきり心からの気持ちを囁いた。


 きみの、全部を独り占めにさせて


 これからもずっと、わたしだけに    





      Because I LOVE YOU!









<きみが好き>三部作(?)ようやく完成です
いやぁ長かった。つか遅かった。しかしまだ全然進んでないものがいっぱいなんだよとかは言わないの☆
あ、さんがイってないのは別に瑛が下手だからじゃないですよ!
そりゃあ天然子悪魔ちゃんだからベッドの中ではうふふふふ……って感じにしなけりゃならないのは百も承知
だけどやっぱり二人とも初体験だから!ね? あと瑛はあの後大してもたなかったと思います。
それが瑛の真の初々しさなんだけど、デイジーは気付かない的な!
ああもうどうでもいいよってな言い訳ですね。こんな言い訳をしないでも読み取っていただけるようなものが書きたいです。
しかしいつもながら中途半端なので物足りなく思われますかもです。
反省を踏まえてそのうちヤってるだけって言うものにも手を出すかもしれません。(いやそれはそれでどうなのか。)
まあ今回は雰囲気重視でエロではない、という前提が元ですので、大目に見ていただけたらと思います。
ではこれにて卒業記念SSは終了です。ありがとうございました!
やっぱり瑛が大好きだ!!
09/04/05